前立腺とは

前立腺は、男性だけが持っている生殖器官の一部です。
大きさ・形はちょうど栗の実くらいで膀胱のほぼ真下にあり、尿道を取り囲んでいます。

前立腺は何をしている臓器かと言いますと、精液の15~20%を占める「前立腺液」
を分泌していて、青年男性では盛んに活動しています。

その前立腺液には精子を守る働きがあります。

さらに前立腺は、生殖機能だけでなく膀胱の出口を開け閉めしたりする、排尿のコントロールにも関係しています。

詳しいはたらきについては、まだ未解明の部分も多いのですが、膀胱のすぐ下にあり、真ん中を尿道が通っている位置関係からも、排尿に影響を与えていることがわかります。

前立腺に異常が起きると、トイレが近くなったり尿がでにくくなったりします。

高齢になると役割を終えて次第に退化するのですが、異常をきたす場合があり、その代表的なものが前立腺肥大症と前立腺がんです。

前立腺は解剖学的に大きく分けて内側(内腺:ないせん)と外側(外腺:がいせん)
に分けられます。
��前立腺の超音波検査や特にMRIではこの2者を分けて見ることができます。)

最近は移行ゾーン・中心ゾーン・辺縁ゾーンの3つに分けることもあり、移行・中心ゾーンは内腺、辺縁ゾーンは外腺にあたると考えられます。

前立腺肥大症は内腺が肥大してきたもの(外腺は圧迫され薄くなる。)で、
前立腺がんは、おもに外腺から発生します。


前立線がんの現状

前立腺がん患者の総数と死亡者数も急激に増えています。

患者数は、1975年に年間で約2000人でしたが、2000年には約2万3000人、2020年には約8万人近くに膨れ上がると予測されています。

死亡者数は、1950年ごろは、男性で、前立腺がんで死ぬ人は、がん死全体の0.1%でしたが、今では0.4%以上です。

この先には、10%に増えると予想されています。

また、2000年には約6800人だった年間死亡者数は、2015年には3倍の約2万人になるとも言われています。


前立腺がんが増えているのは、平均寿命が延びてがんになる人が増えていることと、食生活が欧米型になり、動物性たんぱく質を多くとるようになったことなどが理由です。

また、前立腺がんは人種によって、発症率が違うこともわかっています。

発症率がもっとも高いのは、アメリカ在住の黒人、次にヨーロッパとアメリカ在住の白人、在米アジア人、アジア圏のアジア人の順番になっています。

同じ日本人でも日本に住む人より、アメリカに住んでいる人のほうが発症する確率が高くなっています。


日系人を基準にすると、がんにかかる確率は、黒人で4~5倍、白人で2~3倍、フィリピン系で1~2倍となっています。

このことから、ライフスタイルや食生活が前立腺がんの発症にかかわっていることがわかります。


前立腺の解剖と働き

前立腺は男性にしかない臓器で、精液の一部を作っています。

解剖学的には恥骨の裏側の骨盤腔の奥で、さらに膀胱に連続しその下に位置し、尿道を取り囲み、通常は3×4cm程度の大きさです。

また前立腺の背側は、直腸に隣接しているため、肛門から指を入れることにより(直腸診)、直腸壁越しに容易に触れることが出来ます(図1)。

この前立腺に発生するがんを前立腺がんといいます。

 正常前立腺は栗の実のような形で、移行領域と中心領域からなる内腺部と辺縁領域からなる外腺部からなります。

一般的に良性の前立腺肥大症は移行領域から発生し、前立腺がんの約70%は辺縁領域から発生します


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自覚症状のない前立腺がん

日本の前立腺がんの死亡率は14.4%(平成16年厚生省調べ)で、最も死亡率の高い肺がんの71.3%と比べて低いものですが、前立腺がんの患者さんは年々増加傾向にあります。

 前立腺がんは進行が遅く、初期の自覚症状があまり見られません。

そのため、発見時はかなり進行しているということが多いみたいです。

前立腺がんの原因の一つに欧米の食生活が広まりが言われています。

実際、肉をたくさん食べるアメリカでは前立腺がんの患者さんが非常に多いです。


前立腺がんが増えた原因

日本で急激に前立腺がんの患者数が増加している原因として、食生活の欧米化が考えられます。食生活が欧米化したことで高タンパク、高脂肪の食事が増え、それが前立腺がんや前立腺肥大症増加の大きな原因になっているのです。この事は、欧米で前立腺がんの患者数が多いことからも伺えます。

 また、平均寿命が延びたことで高齢者が増加した事も大きな理由の1つです。前立腺がん患者の90%以上は60歳以上であり、ガンの発見も50歳を超えてからがほとんどです。前立腺は男性ホルモンによって支配されており、高齢化に伴う男性ホルモンの影響が前立腺の病気発症に関わっていると考えられています。

 このほか、検査技術の向上によって前立腺がんの患者数が増加した事も考えられます。前立腺がんの初期には自覚症状がほとんどないために、前立腺がんが発症している事に気付かないケースも多々ありました。

しかし、検査技術が向上したことで、前立腺がんが人間ドックなどで早期に発見できるようになってきています。前立腺がんは他のガンと同様に、早く発見できればそれだけ完治の可能性も高くなるのです。



前立腺がんは転移しやすい

前立腺がんは比較的進行が遅く、おとなしいガンとされていますが、進行すると周囲の骨盤や脊椎に転移しやすくなります。

前立腺がんは早期に発見できれば90%は治療可能なのですが、早期発見が難しいことが死亡者数増加の原因になっています。

 前立腺がんが発見しづらい原因として、初期にほとんど自覚症状がない事があげられます。

たとえ自覚症状があったとしても、トイレが近くなったり、おしっこが出にくいなど、前立腺肥大症と症状が非常に似ており、歳のせいだからと診察を受けない人が多くいます。

これが早期発見の機会を逃す原因になっています。

 そのため、前立腺がんが進行して骨盤に転移し、腰や下肢に痛みを感じて整形外科を受診した際にがんが発見されるというケースが多々あります。

前立腺がんになる人の90%以上が60歳以上であることから、本人だけでなく、周囲の人も些細な体の変化を気にするようにし、定期的に検査を受けるようにする事が大切です。

前立腺がんと遺伝の関係

家族に前立腺がん患者がいる場合、家族が前立腺がんにかかる確率は高いということがわかっています。

前立腺がん患者の約15%は、父親や兄弟にも前立腺がんが発生しているという調査もあります。

また、とくに55歳より若い年齢で、前立腺がんと診断された人のうち、約45%は遺伝と関係があるとも言われています。

家族に前立腺がん患者がいる場合は、定期的に検査を受けることで、早期に発見できることがあるようです。

そもそも、がんという病気自体が細胞の遺伝子異常が原因ですから、遺伝が関わっていることは当然の話と言えるでしょう。

がん遺伝子は、本来、細胞の増殖を助ける働きを持っています。
これが壊れると、細胞が異常なスピードで増殖することになり、発がんをうながします。

逆に、がん抑制遺伝子というものが壊れると細胞の増殖が速くなり、発がんをうながします。

家族に前立腺がん患者がいる場合、もともとこれらの遺伝子に異常があるか、異常が起こりやすい体質であることが多く、それが遺伝と関係する原因となっているようです。

現在では、遺伝子に関する様々な研究がおこなわれており、将来的にはより効果的な遺伝子治療の登場が期待されています。


前立腺がんの生存率

前立腺がんの生存率は他のがんに比べると比較的高めだと言えます。

しかも、前立腺は肺や大腸と違って、直接生命の維持にかかわる組織ではありません。
子供を作るための組織なので、切り取っても生命に支障は出ません。

ただ、がんが残っている場合に見つけにくく、死亡後に前立腺がんだったと判明するケースもしばしばあるほどです。

一般的にがんの生存率には5年生存率が使われます。
これは、治療後5年以内に生存している患者の割合です。

他のがんでは5年経って再発しなければ、その後の再発の可能性はほとんどないことから「完治した」と確定されますが、前立腺がんは5年経った後でも20%近くの人が再発するので、進行が遅い
一方で、完治もしにくいがんだと言えます。

前立腺がんの5年生存率は、一般的には、前立腺内に限局している場合で70~90%、前立腺周囲に拡がっている場で50~70%、
リンパ節転移がある場合で30~50%、骨や肺などに遠隔転移がある場合で20~30%です。

また、がん以外の原因による死亡率は、局所にとどまるがんの10年非がん死率で100%、局所浸潤・リンパ節転移が認められる症例の10年非がん死率で37.4%、初診時骨転移が認められる症例の
10年非がん死率は11.2%です。

前立腺がんは年齢が高くなるにつれて、かかりやすくなります。しかし、高齢化すると他の病気も出てきますので、先に他の病気が悪化したり、寿命で死ぬことが多いのです。


前立腺がんの主な症状

前立腺がんの主な症状は、尿障害です。

初めのうちはそれほど目立った症状は出ないのですが、前立腺がんが、ある程度大きくなって、尿道を圧迫したり、尿道に出てきたりすると、様々な症状が出てきます。

具体的には、眠りについた後に何回も尿意が沸き起こり、何回も小便をする夜間頻尿や、小便がちょろちょろとしか出ない排尿遅延、小便を出した後にまだ尿が残っている感じがする残尿感などがあります。

ちなみに、前立腺が大きくなる「前立腺肥大症」でもまったく同じような症状が出ます。

これらの症状のほかにも、尿に血が混じる、精液に血が混じる、尿をする時に痛むといった障害も出てきます。

前立腺がんが、さらに進行すると、がん細胞が尿道を圧迫して、小便を出したいのに、尿がまったく出ない尿閉という状態におちいります。

膀胱の中に大量の尿がたまっていきますので、こうなると、尿道にやわらかいチューブを入れて、無理やりに尿を外に出す治療を行います。

周辺の骨に転移すると、骨が痛みますし、足や下腹部がむくみます。

さらに転移が進むと、腎臓から膀胱に尿を送る尿管にも障害が出て、その流れがさえぎられてしまいます。

こうなると、今度は腎臓の機能まで障害が出てきて、機能が低下します。

前立腺がんは初期の段階では症状がわかりにくいので、偶然のきっかけで発見されることが多く、はっきりと症状が出てきた段階では、すでにがんが進行している場合が多いのです。


前立腺がんの種類

前立腺がんにはいくつか種類があり、分類の仕方もいくつか存在します。

組織学的分類と呼ばれるもので、分けると、前立腺がんは、腺がん・まれな腺がん・移行上皮がん・扁平上皮がん・基底細胞がん・神経内分泌がん・未分化がん・そのほかの悪性腫瘍となります。

ただ、前立腺がんでは腺がんがほとんどです。腺がんは、さらに、高分化腺がん、中分化腺がん、低分化がんに分けられます。

低分化のほうが、これから悪化していく余地が大きいことを示しているので、タチが悪いといえます。

また、他にもがんの組織の形で1~7に分けるWHO分類、増殖パターンなどで1~5に分けるグリーソン・スコア分類があります。


がんの発見の動機による分類というのもあります。これは、がんがどのようにして見つかったのかということで分類します。

臨床がん、オカルトがん、偶発がん、ラテントがんの4つに分類されます。

臨床がんは、診察によって診断される前立腺がんです。

オカルトがんは、体のどこかに転移が見つかって調べてみたら前立腺がんというパターンです。

偶発がんは、前立腺組織を、がん以外の病気の治療のために切り取ってみたら、偶然にがんが見つかったケースです。

ラテントとは、「隠れた」という意味なので、ラテントがんは、がん細胞があるにもかかわらず、症状として出ていないもののことです。

死後に解剖してがん細胞が見つかるケースが、ラテントがんです。


前立腺がんの予防

日本の男性に前立腺がんが増え始めたのは寿命が延びてがん全体の罹患率が上がったり、検査のや精度の向上等の条件的な理由もありますが、前立腺がんは食事との関連性が顕著であるとの指摘があります。

欧米型の食生活による高カロリー・高タンパクな食事が前立腺がんだけでなくがん全体の罹患率を上げると指摘がありますが特に前立腺がんのリスクを上げる食物に、精製された食品類・乳製品カルシウム・飽和脂肪酸等があげられます。

やわらかいパンやまったくの白米・乳製品全般(マーガリン・バター・マヨネーズ・クリーム・お菓子等)・肉の脂や乳製品からの過剰なカルシウムの摂取も前立腺がんリスクとして指摘されています。





前立腺がんを予防する食品

積極的に摂取することで前立腺がんを予防するといわれる食品もあります。

それは緑黄色野菜全般に言えるのですが特にリコピンが豊富なトマトが良いといわれています。今では一般的に認知されている抗酸化物質といわれている栄養素全体ががん抑制に効果があるのは広く知られてますがその中でも前立腺がんにはトマトのリコピンが良いといわれています。

それと豆腐や豆乳を摂取することで大豆イソフラボンが女性ホルモンの代替の役割を果たし過剰な男性ホルモンの働きを抑制してバランスを整えてくれます。



和食で前立腺がんを予防

昔は、日本人は、当たり前のように毎食味噌汁を飲み、おかずに大豆製品の豆腐や納豆を食べていました。現代では、朝食はパンにコーヒー、昼は洋食メニューかそば、夜はアルコールといった食生活に慣れてしまい、大豆製品を取る機会が少ない人が増えています。

 大豆は、前立腺がんや乳がんの予防に効果的といわれるファイトケミカルの一種の“イソフラボン”を含んだ優れた食品なので、積極的に取りましょう。

 味噌汁は塩分の取り過ぎにつながるということもあり、日に3度摂取する必要はないと思いますが、納豆や豆腐、豆乳などの大豆製品は積極的に摂りたいものです。

毎日の食事に大豆製品を意識的に採り入れることが大切。朝食では味噌汁か豆乳のどちらかを摂取し、昼は納豆そばや大豆のサラダ、五目豆などを選びましょう。

前立腺がんにならないため

前立腺がんの原因は不明なので、下記のような生活を心がける。

 ○ 彩り豊かな食卓にして、バランスのとれた栄養をとる
 ○ 毎日、変化のある食生活を心がける
 ○ おいしい物も適量に、食べ過ぎは避け、特に脂肪を控えめにする
 ○ 大豆をよく食べることはいいかもしれないと言われている
 ○ お酒はほどほどに、健康的に楽しむ
 ○ たばこは吸わないように、特に、新しく吸い始めない
 ○ 緑黄色野菜をたっぷりととる
 ○ 適度にスポーツをする


前立腺がんになりやすい人

年齢: 50歳以上の剖検(死亡時の解剖)では3割、80歳以上であれば6~8割に小さな前立腺がんが見つかるといわれています。
遺伝: 血縁者に前立腺がんの患者さんがいると、危険率は高くなります。
職業: カドミウム(たばこの煙やアルカリ乾電池に含まれる成分)を扱う、電池製造工場労働者などはリスクが高いといわれています。
ビタミン: ビタミンDの活性化(紫外線・日光をあびることによる)やビタミンAが前立腺がんの抑制に関わっているかもしれないという説もあります。
食事: 脂肪(油)、特に動物性脂肪を多くとることは前立腺がんの危険因子として有名です。具体的にはチーズ、卵、豚肉などです。逆に、大豆(みそ・納豆・とうふなど)、緑黄色野菜、トマト、緑茶などは前立腺がんを抑制するといわれています。


前立腺がんの治療「前立腺全摘除術」

前立腺がんの治療には、手術療法や放射線療法の局所療法と、内分泌療法や化学療法の全身療法があります。

前立腺全摘除術はT2までの早期癌の患者さんに行われ、ほぼ根治が期待できます。

前立腺、精嚢を切除し、膀胱と尿道をつなぎます。麻酔は全身麻酔と局所麻酔の2本立てで行われます。この手術の合併症としては、尿失禁と性機能障害が主なものです。

以前はよくみられた尿失禁も、最近では日常生活に支障をきたすようなものは稀になっています。性機能障害、勃起不全はほぼ必発といえますが、早期に限っては性機能に関係する神経を傷つけずに摘出する方法もあります。


前立腺がんの治療「放射線療法」

放射線療法は、放射線を使って癌細胞を殺す治療法で、手術ができない患者さん、進行癌、骨転移のある患者さんなどに行われます。

技術的な進歩により治療成績が向上しており、最近、放射線療法の見直しが進んでいます。

合併症は放射線による一種のやけどで、排尿痛、血尿、皮膚のただれ、直腸からの出血などがみられることがあります。


前立腺がんの治療「内分泌療法」

内分泌療法には精巣摘出術、エストロゲン剤、LH-RHアゴニスト、抗アンドロゲン剤があり、以前は精巣摘出術がよく行われていましたが、最近ではLH-RH アゴニスト単独あるいは抗アンドロゲン剤との併用が主流となっています。

副作用・合併症はそれぞれの内分泌療法により異なりますが、主なものとして、性機能低下、ほてり、乳房腫脹などがみられます。また、内分泌療法に対する抵抗性ができ、2~3年で効かなくなることが問題となっています。


前立腺がんの治療「化学療法」

化学療法は抗癌剤による治療で、内分泌療法が無効な場合にも行われます。

化学療法が前立腺癌患者の生存期間を延長したとの報告はみられず、主に症状緩和に用いられます。

副作用は、骨髄毒性、吐き気・嘔吐、肝障害、腎障害、脱毛などです。


前立腺がんの最新治療

前立腺がんの最新治療は十分に臨床によって効果が実践されていない場合や、薬品の認可が日本では下りていない場合、実施できる病院が限られるなど様々な問題がありますので、前立腺がんの最新治療を受けたいと希望しても、それが叶わないこともあります。

最新治療としては、凍結療法や免疫療法、高密度焦点式超音波治療があります。

凍結療法凍結手術療法とも呼ばれ、前立腺がんの癌細胞を凍らせて破壊します。

免疫療法患者さんの免疫力を高めることで、癌に対する抵抗力を高める方法です。

高密度焦点式超音波治療高エネルギーの超音波を集中させることによって高温を発生させ、前立腺がんを治療する方法です。
また、ホルモン療法の効果が薄れて前立腺がんの症状がぶり返す再燃と呼ばれる状態への対策に使われる最新治療としては、間欠療法や交代療法があります。間欠療法はPSA値の動きを見ながら断続的にホルモン療法を行うものであり、ホルモン療法の項目で詳しく触れていますので、ここでは交代療法について説明します。

交代療法ホルモン療法に用いる抗アンドロゲン剤を変更してみる方法です。抗アンドロゲン剤を切り替えても効かなくなってしまったら、今度はホルモン療法に抗がん剤を加えることで効果を得ることができます。
さらに、従来は効き目が薄いとされていた抗がん剤についても、タキソテールという抗がん剤が開発されたことによって状況が変わってきました。日本ではまだ未承認の方法ですが、海外で行われている前立腺がんの最新治療の研究として、サリドマイドとタキソテールの併用療法と、高用量ビタミンDとタキソテールの併用療法があります。

まず、サリドマイドとタキソテールの併用療法ですが、それぞれを単独で用いるよりも、併用することによって生存期間の延長と再発の予防効果があることが認められました。また、ビタミンDは癌細胞の細胞周期を止める効果や分化を誘導する作用が明らかになっており、タキソテールと併用することでより一層効果が上がったという報告があります。

前立腺がんの最新治療としては、これらの併用療法はまだ不明な点も残されていますが、今後に期待をつなぐという意味では、有望なものと言えるでしょう。



前立腺がんと前立腺肥大症の違い

前立腺がんと前立腺肥大症は症状が似ているため、前立腺肥大症から前立腺がんに進行すると考えている人がいますが、そもそも前立腺がんと前立腺肥大症は発症部位もメカニズムも異なります。

 前立腺がんは前立腺の外側に位置する外腺に発症しやすく、一方、前立腺肥大症は尿道を取り巻く内腺に多く発症します。このどちらも腫瘍に変わりありませんが、決定的な違いは前立腺肥大症が良性の腫瘍であるのに対し、前立腺がんは悪性の腫瘍である事です。この良性と悪性の違いは、転移するかしないかで判断します。

 前立腺肥大症を発症すると、頻尿や排尿障害などの症状が現れるようになりますが、放っておいても生命に危機を及ぼすようなことはありません。しかしながら、前立腺がんは周囲の骨盤や脊椎、リンパ節に転移するため、放っておくと死に至ります。実際、前立腺がんで死亡する人の3人に2人は骨転移を起こしています。

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前立腺肥大症の症状

前立腺肥大症は高齢の男性によく見られる病気であり、尿道が圧迫されて 排尿障害をもたらすことが知られています。
前立腺肥大症は年齢と深い関係 にあり、40・50代で症状が出始め60歳を過ぎると、半数以上の人が夜間頻 尿と放尿力低下になります。

80歳までには80%の人が前立腺肥大症になるとみられ、高齢の男性にほぼ全員発症するため、男性の更年期症状 、老化現象の一種という見方もできます。

ガンとは違って生命にかかわるような病気ではありませんが、放っておくと尿 閉といって尿が全く出なくなることもあります。

前立腺肥大症には第1期から第3期までの症状があります。

第1病期(膀胱刺激期)夜間にトイレに行く回数が多くなる、尿の勢いがない、尿がすぐ出ない、 少ししか出ない、時間がかかる(排尿障害)などの症状が出てくる。

第2病期(残尿発生期)尿をした後もすっきりとせず残っているような感じがする(残尿感)とい った症状が出てくる。

第3病期(慢性尿閉期)昼夜を問わずトイレに行く回数が増えて、排尿にかかる時間が長くなり、 一回の排尿に数分かかるようになる。時には尿が全く出なくなってしまう こともある。


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前立腺肥大症の治療(薬)

植物エキス剤:エビプロスタット、パラプロスト、 セルニルトン:
症状を緩和する作用があり、夜間頻尿・残尿感・切迫尿意などを軽減し、時には症状が消失するほどの効果 もあります。前立腺そのものを小さくするほどの効果は少ない。副作用が少なく、使いやすい薬です。

漢方薬:八味地黄丸、牛車腎気丸 :上記の薬物のように症状を緩和します。症例によっては非常に効果 があります。量が多いのが飲みにくいこともあります。


交感神経抑制剤(α-ブロッカー):ミニプレス、ハルナール、 フリバス、デアタントール :
膀胱の出口が前立腺によって塞がれて狭くなっているので尿がでにくいが、ここを広げる作用があります。排尿効率がよくなり、尿の勢いがよくなります。全身の血管も広げるので血圧が低下するため、起立性低血圧を生じ立ち上がるときふらふらすることがあります。


女性ホルモン剤:プロスタール、パーセリン:
前立腺そのものを少し小さくする作用があります。副作用があり、女性化し、勃起障害になることがあります。食欲がでてくることで太り、心臓に負担がくることもあります。


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前立腺肥大症の治療:高温度治療

患者の負担の少ない、日帰りでできる手術です。手術時間は約1時間、効果は半年から1年くらい続きます。

尿道の表面に麻酔をしてから、カテーテルを挿入し、マイクロ波をあてて、前立腺を45度~55度に加熱します。焼けた前立腺は組織破壊をおこし、縮小します。発想は電子レンジで食べ物を温めるのと同じです。

このとき尿道がやけどをするのではないかと心配になりますが、挿入したカテーテルに絶えず水を還流させて冷やしますので、やけどの心配はありません。

■メリット
①日帰りでできる
②逆行性射精が10パーセント弱の確立でしかおきない

■デメリット
①治療後症状の改善に1~2週間かかる、治療直後はかえって尿はでにくくなる
②効果が1年くらいしかもたない

治療中は前立腺を温めるため、オシッコガしたくなります。しかし、尿道にはカテーテルが入っていますので、おしっこはできません。また、麻酔をしますが痛みを訴える人もいます。

治療後は、前立腺が焼けているため刺激があり一晩中尿意を感じる人もいます。

治療後2日間は尿道にカテーテルを挿入したままなので、不快感があります。その間ペニスの先から4、5cmカテーテルがでたままです。カテーテルには蓋がついていますので尿が漏れることはありません。

カテーテルは2日後に病院で取り除きます。


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前立腺肥大症の治療:尿道カテーテル

前立腺肥大症が進行して膀胱の出口が塞がれ、いよいよ尿がでなくなった場合、狭くなった尿道を通 して膀胱の中に管(カテーテル)を挿入し、尿を出すことです。

尿道カテーテルは2-4週間で交換します。カテーテルをしたまま風呂に入ることもでき、普通 とあまり変わらない生活を送れます。 しかし、長期間の留置は結石形成しやすくなり、膀胱炎を生じることになります。


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前立腺肥大症の治療:レーザー治療

尿道内に挿入した内視鏡カメラからレーザー光線を前立腺に照射して前立腺を焼き、蒸散させて肥大症を縮小させるものです。

手術とことなり出血がほとんどなく、短時間ですみますが、痛みがありますので、麻酔が必要です。レーザー光線を導く光ファイバーに数種類ありますが、効果 は同様です。

手術より手軽で、効果は手術と同等かそれ以下ですが、手術が受けられないような人(重い心臓病・肺機能低下・出血しやすい人など)にも可能です。


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前立腺肥大症の治療:尿道ステント

前立腺部の尿道に2-6cmの短い管を挿入し、狭くなった尿道を広げて排尿を改善するものです。

数種類のステントがあります。

尿道カテーテルのように体の外に出ていません。また交換の必要もありません。

ステントの挿入には技術的には困難は少ないのですが、その後微妙に移動することが多いので、適切な位 置に挿入することが難しい場合もあります。


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前立腺肥大症の手術: 経尿道的前立腺手術

経尿道的前立腺手術は、尿道から内視鏡を挿入して、先端についているループ状の電気メスで前立腺の内側を少しずつ切除する手術です。

腹部を切開しないので、負担が少なく、前立腺肥大症の手術はこの方法が多いです。

前立腺を削ると同時に焼き固めるので、出血も少なめです。

削り取った組織は、いったん膀胱内に流し込み、切除終了後に尿道から取り出し、がんが無いかどうか組織検査を行います。

手術は腰椎麻酔で行い、1時間~2時間程度で終了します。

術後は、削り取られた尿道粘膜の保護と切除部の止血などのために、2日~7日間、尿道に先端で風船がふくらむようにした細い管を残しておきます。


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前立腺肥大症の手術:開腹手術

前立腺肥大症の開腹手術は、前立腺の内腺の部分を切除し、摘出する手術です。

前立腺を摘出する手術は、3つの方式があります。

恥骨上式前立腺摘出術

下腹部を切開して膀胱(ぼうこう)を開いて、そこから前立腺の肥大した部分を摘出する手術です。

この手術は、手術の後に強い尿意が続いたり、長い間カテーテルを入れておかなければならないなどのデメリットがあるので、今ではあまり行われていない術式です。


恥骨後式前立腺摘出術

恥骨のすぐ上から恥骨の裏側にそって切り開き、前立腺皮膜を露出させます。この状態で前立腺の摘除を行なうので、上で解説した恥骨上式とは違い、肥大している部分を目で把握(はあく)しやすい状態で手術を行なうことができます。

 恥骨上式に比べて出血量が少なく、膀胱を開かなくていいというメリットがあり、もっとも多く実施されている術式です。


会陰式前立腺摘出術

陰嚢と肛門の間を切開して前立腺を摘出します。

この術式は、メスを入れる部分が目立たないところなので、傷跡が人目に触れず、さらにメスで開く部分が小さいなどのメリットがあります。

この術式は技術的に難しいので、あまり行われません。

開腹手術のメリットは、成功率が高いことです。

開腹手術のデメリットは、低侵襲手術にくらべると大きく身体に傷をつけますから、術後の入院期間が長くなります。そして、傷が治るまで痛みも大きいです。

以前は、前立腺肥大症の手術は全て開腹手術を行うのが普通でした。しかし今では開腹手術は、前立腺の肥大がかなり進行して大きくなっている場合に行うかどうかが検討されます。


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前立腺肥大の治療:薬物療法

前立腺肥大症の薬による治療である「薬物療法」では、内服薬などを使って尿の通りをよくします。

α1受容体遮断薬

 この薬は、交換神経の緊張によって起こる前立腺・膀胱(ぼうこう)の平滑筋(へいかつきん)の緊張を解いて、尿道の内圧を減らして尿の通りをよくします。広く使われている薬です。

 効果は 1週間程度で現れて、長くつづきます。

 副作用はとても少ないです。下痢、鼻づまり、立ちくらみ、めまい、精液量の減少などが起こります。

 肥大した前立腺を小さくする効果はないので、薬の服用をやめると、また排尿障害の症状が戻ってしまいます。

・薬の名前[選択的]
 塩酸タムスロシン(商品名:ハルナール)、シロドロン(商品名:ユリーフ)、ナフトピジル(商品名:アビショット・フリバス)

・薬の名前[非選択的]
 ウラピジル(商品名:エブランチル)、塩酸テラゾシン(商品名:ハイトラシン・バソメット)


抗男性ホルモン薬

 男性ホルモンの作用を抑制(よくせい)して、肥大した前立腺を小さくすることで、尿の通りをよくします。

 効果は、服用から 2週間から 2ヶ月で現れます。

 副作用は、性欲が減る、勃起不全(ぼっきふぜん)、女性化乳房(じょせいかにゅうぼう)、肝機能障害、胃腸障害など。

・薬の名前
 酢酸クロルマジノン(商品名:プロスタール・プレニバール・ルトラール・他)、アリルエストレノール(商品名:パーセリン・サルミコール、アランダール、他)


漢方薬
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 排尿障害の治療として、漢方薬や生薬を使う場合もあります。

・薬の名前
 漢方薬(牛車腎気丸・八味地黄丸、他)、生薬(セルニルトン・エビプロスタット、他)


前立腺肥大症の治療薬

前立腺肥大症の治療薬には、α-遮断薬、植物製剤、ホルモン療法剤、漢方薬などがあります。また、前立腺肥大症の治療法は薬物療法と外科的療法があり、症状が軽いと薬物療法が行われ症状が重い場合は外科的療法が行われます。

前立腺肥大症の治療薬~α-遮断薬
α-遮断薬は前立腺の緊張を抑え尿道を広げる作用があります。前立腺の組織には交感神経が分布しており、この交感神経が興奮すると前立腺の筋肉が緊張した状態になるため尿道が狭くなり排尿が困難になります。
エブランチル、フリバス、アビショット、ハルナール、ミニプレス

前立腺肥大症の治療薬~植物製剤
前立腺の炎症を抑え浮腫を取る作用があります。
セルにトン、エビプロスタット

前立腺肥大症の治療薬~ホルモン療法剤
前立腺を小さくする働きを持った抗男性ホルモン剤が使われます。
プロスタール、プロステチン

前立腺肥大症の治療薬~漢方薬
排尿困難を改善するとされています。
八味地黄丸、桂枝茯苓丸、猪苓湯

前立腺と同じような症状でも違う病気の場合もありますので、泌尿器科できちんと診断を受けることが大切です。
前立腺肥大と診断された場合は、尿意を我慢しない、体を冷やさない、便秘に注意する、アルコールを控える、長時間座らない、かぜ薬や胃腸薬の中に尿の出方を悪くする成分があるので勝手に服用しないなど注意した生活を心がけます。


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前立腺がんの最新治療

前立腺がんの最新治療である前立腺組織内照射療法はアメリカで実施されています。日本では、まだこの治療を行うことができるI (ヨード) -125は限られていますので、治療できません。

入院期間は1日ぐらいです。

前立腺組織内照射療法の特徴
��、外科手術( 根治的前立腺摘出術 )に比べ必要となる時間はずいぶん短くなり、入院期間は1日ぐらいで結構です。

��、通常の外部照射に比べてより大量の線量を前立腺に照射できること、周辺の臓器への照射量を抑えることができます。治療に伴う身体的な負担が大変小さくなり、なお、治療後に起こる副作用も一般に軽度なため、比較的高齢な方でも治療を受けることが可能で退院後すぐに日常生活に戻ることができます。

��、比較的早期の前立腺がんに対する治療法としてアメリカでは実績によると、外科手術とほぼ同等の成績であることが分かりました。つまり、初期前立腺癌であれば、95%の5年以上生存率です。

I (ヨード) -125について紹介します。

I (ヨード) -125は、アメリカを中心に用いられている線源で、I (ヨード) -125を経直腸エコーガイド下に正確に前立腺内に永久挿入する治療法で、アメリカにおいては限局性前立腺癌の標準的治療として定着しています。しかし、日本ではまだ許可されていません。



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前立腺がん 転移

前立腺がんも転移します。

前立腺がんは、まず周囲のリンパ節に転移します。
時間が経つにつれて、他の場所にも徐々に転移していきます。

転移は肺や大腸など様々な臓器への転移の可能性が考えられますが、前立腺がんが特に転移しやすいのは、骨です。

前立腺がんが骨に転移する確率は非常に高く、前立腺がんの転移全体のうち70~90%程度に骨への転移が見られます。

骨の中でも、特に骨盤骨、脊椎、ろっ骨、大腿骨への転移が見られます。

リンパ節までの転移ならば、5年生存率(手術などの治療をほどこした後、5年以内に生きている確率)は、80%ですが、骨にまで転移した患者の5年生存率は25%にまで低下します。

前立腺がんの転移の治療は、まず内分泌療法(男性ホルモンを抑える薬を投与する方法)を行うのが一般的です。

男性ホルモンの働きを抑えるLH-RHアナログ薬を投与しても、しばらくすると体が慣れて、徐々に効果が薄れていきます。その場合は、もう完全に治療することが難しくなるので、痛みを和らげるための治療に移っていきます。

また、骨転移による痛みが出た場合は、前立腺に体の外から放射線を当てる治療法で、77~92%のケースで痛みをとれることがわかっています。

抗がん剤は、がんの再発そのものを抑える効果は期待できませんが、痛みを抑える効果や一時的にがん細胞を抑える効果はあります。

抗がん剤の効果も長続きはしないため、それでも痛みが出る場合は、痛み止めを使うしかありません。
硫酸モルヒネ徐放剤を1日に2、3回飲むことで、痛みをかなり和らげることができます。



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前立腺がん 転移による症状

前立腺がんは、骨に転移しやすいことで知られていますが、骨に転移があった場合でも、転移の初期段階では、目に見える症状はあらわれません。

骨転移がある程度大きくなると、転移した部分の骨の痛みが出てきます。
脊椎の骨転移が脊髄を圧迫すると、下半身が麻痺することもありますが、生活に支障をきたすので、すぐに治療をして改善する必要があります。

骨転移は確かに痛むのですが、筋肉の痛みである可能性もありえます。

骨転移の場合は、痛みのある部分をたたくと、痛みが非常に強くなるという特徴があります。
また、骨が弱るので、骨折しやすくなります。

また、前立腺がんは、周辺のリンパ節にも転移しやすいのですが、リンパ節に転移すると、おなかに痛みが出たり、腰痛が出てきたりします。

初期段階では症状はありませんが、転移が進んで、がんが大きくなると、これらの症状が出ますし、下半身にむくみが出ることもあります。

骨転移の痛みを和らげるために、抗がん剤治療などが行われますが、何度も転移が再発すると、尿を出すことが難しくなったり、尿に血が混じることもあります。

尿がつまり、腎臓の機能が低下する深刻な症状を引き起こすケースもあります。

最終的には、モルヒネを使って、痛みを取り除く以外に方法はないのですが、モルヒネは、痛みに対してかなりの効果を発揮することがわかっています。


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前立腺がん 脊髄転移

前立腺がんが脊髄に転移すると、転移した前立腺がんが大きくなって、脊髄を圧迫するようになります。

ひどくなると、麻痺が強くて、両足が動かせなくなることもあります。

麻痺が起こってから、ある程度以上の時間が経つと、治療しても麻痺が治らなくなることもあります。

治療の方法としては、麻痺による痛みを取り除くためにステロイド剤を投与した後に、放射線をがん細胞に当てて、がん細胞を殺します。

ホルモン治療をまだ行っていない患者の場合、脊髄が麻痺しても、その後にホルモン治療を行うことで、がんが治る可能性があるので、外科手術が行われることもあります。
その際、椎弓という脊髄を囲んでいる部分を切り取ります。

すでにホルモン治療を行っても、体が慣れて、効果が薄れている患者は、すでに麻痺している場所以外にもがん細胞が転移している可能性が高いので、完治目的ではなく、痛みを取り除くために放射線治療を行います。

このケースでは、外科手術を行ってもあまり意味がないので、手術は行われません。



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前立腺がん治療の予後

前立腺がんの治療を行った後は、後遺症と再発のチェックを行います。
治療後の後遺症には、尿失禁と勃起不全があります。

尿失禁は、治療により、尿道の開閉をコントロールしている尿道括約筋が傷つくために起こります。

前立腺と尿道括約筋は、非常に近い場所にあるので、前立腺を切り取る時に、どうしても尿道括約筋を傷つけてしまうのです。

膀胱の神経も一部、傷つけることになり、膀胱の感覚が鈍ったりします。

前立腺を切り取った後は、膀胱と尿道をつなぎ合わせて、うまくつながるようにしばらくカテーテルを入れておきます。

��週間ほど経つと、一部の人には尿漏れが出ますが、これも自然に治ります。

勃起不全は、前立腺の周囲にある勃起をコントロールしている神経を傷つけることから、起こります。
今ではよい薬もあるので、これもすぐに回復します。

治療の予後は、がんの病期とがん細胞の性質によって違います。
早期のがんで、がん細胞のタチも悪くなければ、治療後も長い間生きることができます。

病期がよく、前立腺がんが前立腺の内部にとどまっているステージAの場合は、5年生存率は、100%に近いですが、他の器官に転移しているステージDの場合は、5年生存率は20~30%と極端に悪くなります。



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前立腺がん:PSA再発

生化学的再発(PSA再発)も再発の一種です。

通常、前立腺がんの手術を行い、前立腺をすべて切り取った後にPSA検査(がんが残っていると血中のPSAという物質の濃度が高まる)をすると、PSA値はほとんど0に近い数値を示します。

ほとんどのPSAは前立腺から生産されているので、前立腺を切り取った後にはPSAも当然生産されなくなります。

通常なら生産されないはずのPSAが増えてきて、PSA検査で高い数値が出ることがあります。
これを生化学的再発と呼んでいますが、体のどこかにまだ前立腺がん細胞が残っている時に、この状態になります。

術後に通院して3ヶ月ごと、または6ヶ月ごとに1度PSA検査を定期的に行っていく過程で、PSA値の上昇がみられ、画像検査を追加で行って再発が見つかることもあります。

他のがんは、5年以上経過しても再発がないと、完治したと判断されるのですが、前立腺がんは、5年を経過しても再発するケースが多い珍しいがんです。

術後5年を経過してPSA再発を認めたものが27%もあったという調査もあるほどです。



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水腎症と腎不全

前立腺がんが再燃した場合、がんが直接膀胱に浸潤し、尿管から膀胱の出口(尿管口)の部分で尿が通過しにくくなることがあります。

尿管の横のリンパ節が大きくなって尿管を圧迫し、尿の通過障害を引き起こします。
尿管の両側が圧迫されると腎不全に発展する可能性もあるので注意が必要です。

腎臓から尿を膀胱に送り出せないことから、腎臓の機能が低下するのが腎不全です。

これを改善するために、尿道以外の別のルートを人工的に作ることで、尿の通路を確保する治療が行われます。

この尿の圧迫に対しては、2種類の治療法があります。

まず、尿管の中に細いチューブ(ステント)を入れる方法です。
これがうまく機能すると、体の外にチューブが出ないので、便利なのですが、たまに詰まってしまうことと、交換が大変だというデメリットもあります。

もうひとつは、超音波検査やX線造影検査を併用して、背中から直接腎臓に細いチューブを入れる(腎ろう)という方法があります。

背中からチューブが出るので、やや不自然で不快感もありますが、交換も簡単で詰まりにくく、ステントよりも楽です。


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前立腺がん 予防にきく食事

前立腺がんは、以前日本では非常に少ない病気でしたが、食生活やライフスタイルの欧米化により、今では増えている病気です。

以前なら前立腺がんに侵されているにもかかわらず、見過ごしたまま死亡する人もいたのですが、今では検査技術が発達したために、多くの人に発見されるようになったことも増加の原因です。

前立腺がんは人種や遺伝も大きく関係しており、これらは変えることはできませんが、食生活は簡単に変えることができます。

欧米食よりも日本食のほうが体には良いことがわかっています。
何が違うかというと、動物性脂肪の量です。肉を食べるのはあまり前立腺がんにはよくないということです。

動物性脂肪は肉だけでなく、チーズや牛乳といった乳製品にも含まれているので注意が必要です。
塩分をとりすぎるのもよくありませんから、イカの塩辛や魚の干物など塩分が強すぎる食べ物は控えたほうが良いでしょう。

食物繊維をとることは、前立腺がんの予防に役立つそうです。

伝統的な日本食である味噌、納豆、豆腐には多くの食物繊維が含まれているので、たくさん摂取するとよいでしょう。

欧米料理は基本的に、油や脂肪分が多いので、避け、日本食を摂りつつ、塩分を控えるように気をつけることが予防につながります。



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前立腺がん:再燃による排尿困難

再燃とは、ホルモン療法を行っている途中でがんが悪化することを言います。

再燃した場合には前立腺が大きくなっていることがあり、排尿障害や血尿を引き起こすことがあります。

排尿があまりに難しくなった場合には、外科手術が行われます。

これは、経尿道的前立腺切除術と呼ばれ、尿道から小型カメラがついている内視鏡を入れて、前立腺をモニターで観察しながら、尿道を圧迫している前立腺がんを切り取るという手術です。

前立腺が大きくなった部分だけ切り取るので、この治療でがんが治るわけではなく、あくまでも排尿障害を治すためのものです。

排尿困難がある場合、前立腺に放射線をあてる方法も効果があります。
これは、前立腺から出血がある時にも効果を発揮します。

すでに前立腺がん治療の時に放射線療法を試みている人には、この方法は使えません。
再び放射線を使うと、強い副作用が出てしまうからです。

最初の放射線療法の時に、がん細胞を死滅させるために、正常な組織が受けられるぎりぎりの量の放射線を浴びせています。
その状態から追加で放射線を当てると、直腸から出血するなどの強い副作用が出てしまうのです。

直腸のほかにも尿道が狭くなったり、他の組織が傷つくなど放射線治療の傷跡は大きいものです。



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前立腺がんの骨転移

前立腺がんは骨に転移しやすい病気です。

高カルシウム血症の治療に使用されていたビスホスホネート製剤という薬が、多くのがんの骨転移に有効で
あることがわかっています。

骨には、造骨細胞という骨を作る細胞と、破骨細胞という骨を再吸収する細胞があり、正常な骨では2つのバランスがとれています。

ビスホスホネート製剤は、破骨細胞を抑える働きがあります。
前立腺がんが骨に転移すると骨が弱くなり、骨折しやすくなるので、この製剤を使って、骨を壊す細胞を弱めることで、骨を固めてがん細胞の骨の増殖を防ぐという方法です。

ビスホスホネート製剤の中でもゾレドロン酸という薬がもっとも高い効果を発揮するということがわかってます。

こちらは抗がん剤に比べると、副作用ははるかに少ないため、骨転移が多い患者には有効かもしれません。

もともとは血液中のカルシウムの量を減らす薬なので、場合によっては、他の薬で血液中のカルシウム量を補う必要も出てきます。

実際に体に投与する際は、15分以上かけて点滴を打ち、3~4週間に1度のペースで体内に投入していくことになります。




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